オープンイノベーションもデジタルトランスフォーメーションも失敗する原因は同じ

オープンイノベーションとは

オープンイノベーションの説明は色々なサイトで書いていると思うので本質的な話しだけ。

これまで技術開発を軸に据えた企業の中でオープンイノベーションの成功例はあまりなく,今後も難しいのではないかという意見が数多くあります。

TUSMOT西野教授の指摘でも、「成功事例として挙げられているのは日用品等の限られた企業だけであり、先端技術には通用しない点や、利害関係者同士の情報交換の難しさ、情報そのものが粘着性(ノウハウや形式知化されていない情報を含む)を有する場合、伝達・理解に多額の費用と教育を要する。そして、最終的な結論としては、信頼できる顔の見える少数の相手と組むクローズドオープンイノベーションが先端技術の開発には重要である」としています。

この考え自体は当たり前のものであり、メーカーが顧客の企業と組んで新製品を生み出したり,大学との共同研究から新技術を生み出したりした例はいくらでもあります。その他にもベンチャービジネスを活用する、またはこれを買収するということもあります。

しかしながら私の経験上、クローズドオープンイノベーションで失敗する要因は「線引き」だと思っています。

それは各企業・担当者・大学なとの利害関係者が、最初はフェアだと言いつつ、具体的な話しになった途端に綱を握りはじめ、利害関係者のパワーゲームになることです。我田引水(他人のことを考えず、自分に都合が良いように言ったり行動したりすること)し、「じゃ、うちの取り分は」「儲かるのはあんただけならやらない」、さらには「コンプライアンスが」と言い出す。つまり、最初の段階での共創のための区画整理と要件整理にミスるということです。

結局、内外部を見極めて、社外に根回し、社内に根回し、さらにはどこまで契約書に記すのか、そこまでやらないと中々クローズもオープンイノベーションも難しい。我が村(既得権益を持つ)を守るためと邪魔されて、機能不全に陥いて何もできなくなる。それがイノベーションを阻害する要因のひとつです。

デジタルトランスフォーメーション

過去のデジタル祭り(なんちゃってデジタル化)ではなく、アフターコロナの世界では、デジタル技術を使わざる得ない状況になってきています。本当の意味でのデジタル化がこれから進むことは確実で、これがないと多くの企業は生き残れない時代になります。

デジタルトランスフォーメーションを最も活用することができている、もしくはできるようになるのはまずは小売りからでしょう。例えばアマゾンのレコメンド機能は、ユーザーが次に何を欲するかという、これまでは店員の「知識」や「経験」から生み出されてきたことを、デジタルに置き換えた事例です。

さらに、特にトレンドのある商品では、お客さんの行動・心理をトラックすることができるため、今までセンスなどで勝負(製造)してきた部分で、流行を定量的に判断できるようになるでしょう。つまり、すべてにおいてデータとしてノウハウも含めて蓄積し、再現性ができるようになるということがデジタル化の利点です。お客様がなぜ買うのか、良い接客とはなにか、お客さんのデータ、製造のデータを融合し、すべてにおいて言語化できることがデジタルフォーメーションの姿です。

では、デジタルフォーメーションで失敗する要因はなにが挙げられるでしょうか。

それは、顧客価値、商品・サービス価値はなんなのかを再定義できていないことです。そもそも事業の構造は、事業定義、戦略、方針、仕組みの4階層です。事業定義は、「どんなお客さんに、どんな特色のある商品・サービスを提供し、どんな価値を提供するのか」ということ。

そして、その事業をどう展開するのか、どのシェアを獲得するのか、どのターゲットを狙うのかなどの優先順位を明確にします。その戦略の下に商品・サービスに関する方針、値付けの方針、在庫の方針、人材採用方針など、すべての事柄についての方針があります。

また、各方針を仕組み化すること、その仕組みを管理運営し、成果を出すことが各部門の役割となります。この仕組みを運用することで、狙った顧客に設計どおりのサービスを提供することができます。この事業構造の実現を担うものが組織であり、その事業を営むために分業を機能させることになり、その仕組みの中で多くの人が働きます。

デジタルを導入するとき、一番重要な事業定義(戦略)を既存事業の延長線上で考え、効率性や生産性だけに着目してデジタルによる仕組みを構築しようとすること自体が間違っています。お客さんが買わなくなってきているのに、なぜデジタルを導入すれば売上UPになるのでしょうか。どれも失敗の原因は同じ

オープンイノベーションもデジタルトランスフォーメーションも失敗する原因は同じ

オープンイノベーションは線引きで失敗する。デジタルフォーメーションは事業の再定義で失敗する。これらの事例は大きく異なっているように見えますが、本質は同じです。
 
失敗の本質のひとつ目は、リーダーが大きな戦略図を欠けていないことです。戦略図を描くにあたり、市場性、競合、業務遂行能力、デジタル技術(第4の戦略変数)を組み合わせて穴のない戦略をつくっていくことが必要ですが、専門性のあるメンバーに聞いてつくると、どれも全うな意見に聞こえ、あれもこれも足し合わせて複雑怪奇なものになっていきます。

戦略立案は引き算が基本で決して足し合わせではありません。例え意見を聞くにしても自分自身で大きな絵を描いて、他の人の意見を聞きつつ削ぎ落していく(クリスタライズ)ことが必要です。でも大抵、特にチームメンバーは否定的なことを言わないので、耳の痛い話をしっかりといってくれる人材を感情抜きに選定していくことも大事です。

事業戦略を描くにあたって、顧客からの目線(顧客の欲求)ではなく、既存事業の延長線上で事業戦略を描いてしまえば、オープンイノベーションしかり、デジタルフォーメンションしかり、WHYなぜやるのかが欠落したままプロジェクトは進めることになります。

どのような顧客を「ターゲット」とするのか。どのような「商品・サービス」を提供するのか。その結果、どのような「価値」をいつまでに実現するのか。その意識がないからWHAT何をやるのか、HOWどうやってやるのかも迷走します。ただでさえ難しいプロジェクトコントロールが、迷走してしまえば最終的にはプロジェクト内外での人の衝突が生じ、人間関係が崩壊します。良い事業戦略が描けても詰まるところ、プロジェクトが成功するかしないかはすべて根回しを含めた人間関係、それが事業のリアルです。

失敗の本質のふたつ目は「スピード感(生産性)」です。間違えないでほしいのが、人間関係が良いから成果があがるのではなく、成果が良い人間関係をつくるということです。

上手くいくプロジェクトは、冒頭で述べた「まず取り分は?」ではなく、①まずはやってみましょうとお互い手を動かす、②そのスピード感が同じ、③成果目標と期限が明確という要件を備えています。

ここでハードルが高くなるのが、②スピード感です。特にベンチャーと大企業の組み合わせの場合は、大企業は手続き重視(私が所属する会社では稟議に4つのハンコ)でスピード感がなく、さらに自分たちで手を動かそうとしないという傾向があるため、ベンチャー側にとってはその性質を十分認識しておく必要があります。