なぜデザインエンジニアリングなのか

事務所名にデザインエンジニアリングと入れている理由をよく聞かれるので説明します。

デザインの1つ目の役割

デザインの1つ目の役割は、誰もが見える「かたち」であり、それによってコミュニケーションが図れることです。

例えば、デザイナーが今得た情報をすぐに「かたち(プロトタイプやスケッチなど)」にして、チームでシェアし、または顧客とシェアすることで、すぐにフィードバックを受けて、さらにコンセプトをブラッシュアップさせていくことができます。

現代のような成熟社会で、マーケティングしても定量的な調査結果が得られず、面白いコンセプトやアイデアがなかなか発見できない場合でも、上記のようなデザインプロセスによって、仮説検証サイクルをスピードを持って回していくことで新しいコンセプトが発見できます。

ここでいうコンセプトとは、なにを、どのようにデザインするべきかという指針のために必要なものです。このコンセプトがあるからこそ、多くの人々と共有できる問題を解決することができます。

しかしながら、チームの中でコンセプトへの理解がなければ、エンジニアは技術を追及したいと考え始め、ユーザーを蚊帳の外にして技術にこだわり始めます。

一方で、ビジネスチームはビジネスモデルだけで考え、非合理的な人の行動が実際の環境に投げ込また時にどのように行動するのかが分からないから机上でビジネスモデルをつくります。

このようにならないように、開発の初期段階からデザインを介在させることで、ユーザーがリアリティを持ってどのように振舞うか、つまりユーザーの本質的な欲求をチーム内で共有できることができます。

あたり前ですが、チームで現場を見て、それぞれが気づきや考え、その状態でミーティングして、それをチームに伝えていく。

それをせずに机上でペルソナを設定し、ターゲットユーザーを決めても、結局みんなが思っていることが違えば、開発するプロダクトの質が全く違ったものになります。

現場のデータから見えるもの、直感から見えるものを共通のコンセプトとして、それぞれの各個人の専門性を発揮することでイノベーションは起こりやすくなります。

デザインの2つ目の役割

イノベーションには、新しいものやサービスをつくる前段階と、その新しいものやサービスが社会に浸透するという2つの段階があります。

1つ目のデザインの役割は前段階の部分です。つまり生活の中でどのように機能するかを考えることがデザインの役割です。

生活の中で機能するためには、誰もがその製品を理解できるコンセプトが必要ですし、またそのコンセプトを実現するテクノロジー(エンジニアリング)が必要です。

結局は、新しいテクノロジーも、コンセプトの上にいかに適合できるかによってその水準が決まってきます。

アップルをはじめ、多くの企業が製品売り切りモデルから長期に渡ってユーザーとの接点を保っていく「リンカーリング」や「サブスクリプション」モデルを構築しています。

このような長期的なユーザー体験によって、さらにコンセプトを磨き上げる過程で、次第に社会に浸透していくことができます。

また、従来の売り切りモデルの問題は、つくり手の思いが伝わらないし、店頭で比較されて、最終的には価格が安くないと売れないということでした。このようなチャンネル構築の仕方では社会に浸透することは難しくなります。

デザインを通じて、長期的なユーザー体験を経て、顧客との関係を築くことができれば、デザインの役割によって社会へ浸透するための駆動装置となります。

このように社会に浸透する段階でもデザインが重要な役割を担います。

なぜデザインエンジニアリングなのか

研究・開発で生まれたテクノロジー(エンジニアリング)が社会へ浸透し、生活の中で使われるためには、デザインが重要な役割を担います。

どんなに優れたテクノロジーであっても、ユーザーが一度使ってみて、使いにくかったりすれば、結果的に社会には浸透せずイノベーションは起きません。

しかし、デザインによって、ユーザーがどのように振舞うのか、何をすれば使い続けてくれるのか、どのようにすれば良い印象を持ってくれるなど、様々な接点をコントロールができます。

つまり、デザインを通してユーザーを理解することができ、デザインがテクノロジーと社会のデスバレー(死の谷)を飛び越える役割を担います。

しかし、理解だけでは足りません。究極には、ユーザーになりきり、つくったものをユーザーにぶつけながら仮説検証を繰り返していくことでさらにユーザーに強く共感することがデザイン思考のあるべき姿です。

機能や性能などが便利なのはあたり前、ユーザビリティといった使いやすさも当たり前、ユーザー体験という使ってうれしい、使い続けたいモノであることもあたり前、そのさらに先に、そのプロダクトを買う意味、使う意味が求められているのです。

こうして、デザインから、顧客と企業の関係性、企業の中の働く人々の間の関係性、など多様な関係性が紡ぎ出されていきます。

その関係性の網の中で、美しいデザインを目指す企業の成功はより深く担保されていきます。

美しいデザインで企業は成功する、というのは、そういうことなのです。

教科書を超えた技術経営 第4章 美しいデザインで企業は成功する/日本経済新聞出版社」に加筆