個は、自由だが、寂しい、「ロマンチシズム」

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カンブリア宮殿でスープストックトゥーキョーが取り上げられており、番組最後に村上龍氏のコメントがあったのでまず抜粋します。

スマイルズには、3つの事業がある。自分事業、コンサル・プロデュース事業、出資・インキュベート事業と分けてある。どの事業も共通しているのは、やるほうも、客として想定されているほうも、どんどん「個」に近づいているということだ。「群れ」として、客を考えない。個は、自由だが、寂しい。そこで遠山さんは、「ロマンチシズム」を利用する。ロマンチシズムは、共感がベースとなる。たとえばスープストックのスープは、その共感の軸となる。

テレビ東京/カンブリア宮殿

この中で「ロマンチシズム」を利用する、という部分があり、なぜ“利用する”なのか考えてみます。

ロマンチシズムと経済合理性

ロマンチシズムは、文学、美術、音楽などの芸術作品において、理性や合理性よりも感受性や主観を重視する精神のことです。近代化が進むにつれて、人間性の解放や自由が求められるようになっていった背景があります。

一方で、経済合理性という真逆の言葉があります。すべての個人行動は、その経済的合理性のみに基づく、すなわち自己の利益のみを考え、その利益が最大化するように常に合理的な行動を取るということです。

多くの企業が成果主義を導入することで合理性を追求し、仕事の成果をすべて金銭に換算して考えます。

経済合理性の下では、自らの利益を最優先に考えるため、成果に直接結びつかない事はなるべく避けようとします。それが働く喜びや向上心を失う原因だとも言われます。

ロボットのように、効率だけを求め、指示された効率化以外のことは何も考えない。そのような状況では、働くことで他者との関わりを持ち、働く意味を見出すことはできません。

人は給料のためだけに働く機械ではないし、高い付加価値を出すことに喜びを感じるはずです。

このように人は、必ずしも常に合理的な行動をするとは限りません。もし、人の行動が全て自分の利益を最大化するために合理的に行動するというのであれば、自分の仕事を放ったらかしてまでボランティアすることはあり得ません。

より「個」としての共感

今までの商品・業態開発をして、ニッチな部分で差別化するという時代から、どういう『世界観や理想を込めて、お客様に共感してもらい、どうやって長く関係性を持ってもらうか』という新しい戦いが始まっています。

1970年〜1985年は、「POS革命」と呼ばれています。外食産業問わずPOSの導入で飛躍的に経済の変革が行われました。それは「商品を販売した時点での情報を取得・管理する仕組み」によって顧客・商品管理が効率化されたことで、大規模な戦略(大量販売)へ移行できたのです。          

その中で、各産業共に「商品開発」「業態開発」「システム開発」に人力を注ぎ、新規顧客獲得へ進んでいきました。しかし、次第に価格競争に巻き込まれていきます。

その後2015年ぐらいから、どこでも同じようなチェーン店から、その場所、そのお店にしかできない価値観や世界観を提供するようになっていきます。

お客様はそれを共感し、居心地の良い空間を求めるようになって行きました。スタッフとの関係性、好ましい雰囲気、親しみのある味といったように居心地の良い空間に継続的に利用していくことで、お店は売上が安定していきます。

このように「顧客と、価値観を一緒に共感し、絆を作り、生涯価値を最大化する」こと、それが顧客の時代への変換点になります。

情報の主従が逆転する現代

新規の時代から顧客の時代への変換は、企業と私たちの「情報の主従」が逆転したことにも起因しています。

SNSが普及するまでは、情報を握っているのは企業やメディアしかありませんでした。だからこそ、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などを通じで、何が起きているのか、何が流行っているのか、それを知るためにこぞって企業やメディアの持つ情報を求めました。そこには「共感」ではなく「消費」しかない時代だったとも言えます。

その後、ネットとスマホが普及し、企業やメディアによって独占されていた情報があらゆる媒体を通して得られるようになります。その多くは、個から発せられるリアルな情報と虚言でした。

今まで情報を独占し、優位に立っていた企業やメディアは、個の情報発信力に立場が危うくなり、その焦りから「個」という存在をクローズアップし始めます。つまり、テレビに取り上げられたものが流行るのではなく、流行ったものをテレビで取り上げざるを得なくなったからです。

その「個」という意思、意見に多くの人が「共感」し、時には批判する。冒頭で述べた「ロマンチシズム」を利用する、にはこのような大きな背景があるのです。

ただし、そこにあるのは、「共感」を得ようと思って、意思を示すことや意見を言うのではなく、のではなく、共感を得られなくてもいいという覚悟です。

良い意味でも、悪い意味でもその覚悟を持った企業なのか、と「個」に見定められるのは、今の時代に必要なことだと感じます。

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