まずは、中小企業庁が発表した「中小企業の経営課題」があります。
中小企業庁ホームページより「中小企業の経営課題」
営業力・販売力の強化 69.4%
人材の確保・育成 51.2%
販売価格引上げ、コストダウン 31.5%
このように多くの中小企業が「集客」「販売」を経営課題と挙げており、それに対しての強化策の実行、もしくはデジタル技術による生産性向上などのコンサルティング依頼が多いです。
営業力・販売力の強化は本当の経営課題ではない
しかしながら、コンサルティングをご依頼頂く中小企業で「集客」や「販売」が本当の経営課題となっていることは少ないです。
その根本には、もっと他の課題が存在していることが多いです。それは「コンセプト」であり「事業」そのものに、多くの中小企業の課題があります。
・社長のトップ営業(人間関係営業)や優秀な社員しか売れない商品・サービスになっている。
・単価が手間に見合っていなため、生産性が低い(何でもお申し付け下さい)。
・事業そのものに特色(コンセプト)や競合他社との違いがない。
このような事業構造に欠陥を持つ状態で、「集客」「販売」を強化しても、ますます社内は混乱するだけです。受注アップと共に社員を増やしても効率は一向に上がらない、提案してもあれもこれもと言われ、その結果、ますます時間がなくなり社員は疲弊していきます。
販売や集客の問題か、根本的な事業構造の問題か、その見極めが重要になります。
その見極めを間違い、販売や集客にお金や時間を使えば、大きな回り道をすることになります。
まずは事業コンセプトをつくる必要があります。つまり売るものが必要なのです。その売るものには、市場性があり、見込客に刺さるものである必要があります。また目指す年商に見合った単価が必要です。
そのためにプロトタイプを試作し、お客さんに試してもらい、現場を観察し改善する。これを高速で繰り返しながら事業コンセプトを明確にしていきます。
お客さんが喜んで買ってくれてこそ、集客の仕組みが活きてきます。
なぜDXが失敗するのか
デジタル化も上記で同じ理由で大抵失敗します。事業コンセプトに特色がないのに、デジタル化に取り掛かってはいけません。
この段階で相談されても、ITベンダーもITコンサルタントも困るだけです。彼らの多くは、「集客やマーケティング以前の問題である」と思いながらも付き合ってくれます。
むしろ、彼らは自分たちの高い給料分の売上を確保するチャンスとみているかもしれません。
究極を言えば事業は売上を上げるか、コストをさげるしかありません。システムは無駄な仕事を減らし、効率的に働くことができるでしょう。しかし、そもそもの差別化した事業がなければ、いずれ衰退するだけです。システム化は必要条件ですが、勝つための十分条件ではありません。
デジタル化の導入のために、クライアントにヒアリングして、ひとつひとつ確認をとり、新しいソリューションを入れたにもかかわらず、満足する結果にならない。その失敗の本質を理解しなければデジタル化を急いではいけません。
ITベンダーの口癖として「方針を決めてください」と言います。クライアントが決めたことに対して、つくる、パラメーターを設定したので、方針そのものには関与していませんということです。
一方で、クライアント側は提案されている技術に対して、業務がどのように変革されていくかのイメージが持てていません。だからデジタル化が、どのように事業に影響を与えるのかが分からないから方針が決められない。
例えばこの技術を入れれば、この部門の人数はいらなくなるのでオフバランスしてくださいとITベンダーが言えれば、クライアントは意思決定ができるでしょう。
つまり問題は根本的な原因は事業戦略がないこと。この技術を知り、業務へ応用をしたときにおそらくこのようになるだろうという大きな絵を描かないということです。
戦略は自社の遂行能力、競争相手との差別化、市場との変化、この3つダイナミズムの中で何をするのかを決めていくことです。これらを決めればプロセスが発生し、そのプロセスをデジタルでバインディングしていくことが今までの戦略のひとつでした。
しかし、今はデジタルがバリューチェーン、ビジネスモデルを大きく変えていく可能性があります。3C+デジタルという第4の戦略変数になっています。
ITベンダーが技術を理解しているんだから、この技術でこのように応用すれば良いというところまで提案すべきですが、本質的な問題は見ないようにして、言われるがままにデジタル化を進めようとします。結局、高いものを受注した方が業績アップにつながるからです。
デジタル化は推進すべきものですが、しかしやり方が問題です。ITベンダーは技術には詳しいかもしれませんが、どんなメカニズムで売上が構成されているのか理解していないし、何が売り上げに寄与して、コストダウンできるのかを論理的に説明できません。つまり業務そのものを理解していません。
あたり前ですが、デジタル・システムを入れれば、減価償却で固定費上がり、利益率は落ちるはずです。しっかりとこれらを理解した上でデジタル化を図るべきでしょう。