デザインとは、「社会の多くの人々と共有できる問題を解決するのが美しいデザインの本質」であると『教科書を超えた技術経営』日本経済新聞出版社の中で定義しました。
それは、デザインが生活環境をより良くしていく手段と考えたからです。
多くの人々がデザインは生活を改善していく手段として存在しているとの認識がなく、色や形をおさめる程度のものとしかデザインを誤解しているのではないでしょうか。
例えば住空間をデザインするとき、その中で家族がどのように生活するのか、さらに深く掘り下げ、母親がキッチンに立つとき、家族とのコミュニケーションはどのように行われているのか、と人間を中心にした視点でデザインすることで、その背景にある根本的な要因や課題を見つけることができます。
家族が求めるものは新しい形や色ではなく、“日々の生活を豊かにしてくれる何か”であることが分かってきます。そして、それが多くの人々と共有できる課題であれば、それが美しいデザインの本質になるのです。
行動観察で課題を発見する
これらの方法論は、行動観察(エスノグラフィー)といい、生活者の行動を観察することによって、生活者の潜在的な欲求(ウォンツ)や課題(インサイト)を顕在化させることができます。
消費者のニーズが多様化する中、消費者が気づかない欲求を見つけ出すために行動を観察し、なぜ(WHY)?と問うことで、固定概念や常識に捕らわれない視点(インサイト)を見出すことができます。
なぜ(Why)を問い、(インサイト)を見出し、プロジェクトの意義(VISION)が明らかになれば、次にどうやって(How)そのプロジェクトを具現化するかを考えていきます。
近年、良く使われているのが顧客価値連鎖分析(CVCA)と欲求連鎖分析(WCA)です。簡単に言えばCVCAは価値のやり取りに注目した分析で、WCAが価値のやり取りの裏にある「欲求」に注目した分析です。
CVCAのポイントは、価値の提供が一方向になっていないかチェックすることですが、CVCAの欠点は、描いたシステムがなぜ(Why)そのような構造になるのかが明示されないことなので、そこを明らかにするためにWCAを用います。
このように課題の本質を見極めた上で、それを解決するための仮説を立てて、企画段階からモノとして試作をするプロセスをプロトタイピングと言います。
思い描いたカタチを立体化して実現性を見極めるためにも、ダンボールや身近なものでモックアップをつくり、その出来栄えや評価は問いません。カタチにすることで、細かな説明を言葉でしなくても、感覚的な良し悪しが冷静に判断できるようになります。
何度かこのプロセスを繰り返すことで、プロダクトとしての本質が研ぎ澄まされます。さらに3Dプリンターなどを使い、より詳細にディテールを決めます。このプロセスによって、感性に訴えるデザインとなります。