デザインの役割
『教科書を超えた技術経営』日本経済新聞出版社の中では、美しいデザイン、コンセプト、テクノロジーの3つが大切であり、どれも欠けてはならない重要な要素だと書きました。
日々、進歩を続けるテクノロジー。革新的なテクノロジーは、私たちの生活を大きく変化させる力を持ちます。こうした最先端技術を私たち生活者にとって、使いやすく、心地よいものにしていくのが「美しいデザイン」の力です。
そして革新的なテクノロジーはその新しさゆえに、「それをどう使うか」は未知数です。先端技術が開発された当初は、私たちの生活に密接な関わりはありません。その可能性を探り出すのも、デザインの役割の一つです。
このように新しいテクノロジーは新しい価値観を与えてくれるものです。こうした常識が覆される瞬間、どういったデザインを生み出せるか。それが私たちが担うべき重要な課題です。
イノベーションのための創造力
一方で、イノベーションのためには創造力が必要で、創造力がなければ時代に適応していけないとしきりに言われています。
その創造力は人の感性によって生み出されます。つまりイノベーションを生み出す力には感性が必要です。
その感性を豊かにするためには、理性がつくり出す常識(固定概念)を疑うことです。理性的な常識に感性が縛られ、抑えつけられています。
あらゆる情報が簡単に手に入れられますが、それは自分の選択の範疇を超えてはいません。つまり、自分の欲しい情報しか受け取らなくなっているのです。
感性に自分の意識を向けてやって、感性を見つめながら生き始めれば、常識を壊すものはいくらでも出てくるはずです。
あらゆるサービスや商品に「それはちょっと違うのではないか」、「ちょっとおかしいのではないか」という疑いを持つことが大切です。
そうすれば感性によって、常識を、固定観念を、「もうすこしこうすればよいのではないか」、「そもそもそのやり方がまちがっているのではないか」という破壊するエネルギーに変わっていくはずです。
その破壊的なエネルギーが「こういうものをつくりたい」と創造する、イノベーションに繋がっていきます。
感性はだれもが持っているものです。その感性とは、人の悲しみを自分の悲しみと感じ、人の喜びを自分の喜びとして感じ取る力です。
最後に思想家河合栄次郎氏のことばを紹介します。
「考え方が人間を決めるのではなく、感じ方が人間を決める」。
感性に訴える美しいデザイン
そもそも感性とは、感覚、感受性、感情、感動の4つのプロセスに分けることができます。

その一番大きな要素である感動を創り出すためには、美しいデザインで感覚を刺激し、感受性を高め、感情を引き起こし、強く心を動かすことが必要と拙著で書きました。
そしてイノベーションとは感動である、とも書きました。その感動が伝染力を持って広がることが、イノベーションには必要です。
しかし、感動が伝染力を持って広がるためには、その動力源となるものが必要です。
感動を創り出し、その感動が伝染していくための駆動装置として、美しいデザインが機能します。
これはたんなる製品の機能性や経済性ではもつことのできない伝染力です。つまり、人の感性に訴えるのが、美しいデザインなのです。
美しいデザインで感動することで感性に影響し、その感性がイノベーションを創造する力になります。
一方で、その感性によって創り出されたイノベーションが感動を生み出し、伝染力をもって広がる。このいずれにおいても美しいデザインが感性の中心に位置するのです。
つまり、美しいデザインとは、美意識(美学)を表したものであり、それを通じてデザインする側と使う側で共感・共鳴するものです。