美容鍼業界の現状について

ある大手美容鍼灸院の経営者から聞いた話。

美容鍼の人気の高さから、美容鍼灸院を開業する個人サロンが多くなっている。

その多くは、鍼灸学校を卒業して美容鍼灸院で3年ほど経験を積んで独立する。しかし、最近は1年、もっと早くて半年程度で辞めてすぐ開業することも多いとのこと。

特にマンションなどで開業するケースが多く、それほど初期費用もかからない。また、普通なら開業しても半年はお客さんが集まらないと言いたくなるが、SNSですぐ集客できて、お客様の満足度も高いらしい。

美容鍼の裾野が広がることは業界によっては良いことだが、でもこのような状況が本当に良いのか、少し考えてみた。

技術が必要ない美容鍼?

それほど経験を積まなくても簡単に独立できるのは、なぜか。

大手美容鍼灸院でも、新入社員はお店の研修で一定レベルをクリアすると、実際にお客さんに鍼を打つようになる。その研修期間は長くて半年程度。特に実技研修では、「痛くない鍼」を打つことが最も重要なことになっている。

打つ場所はほとんど決まっており、それを覚えれば良いし、お客様に合わせてカスタムメードすることも少ない。

また、美容鍼の効果を考えれば当然とも言える。なぜなら、肌に鍼を打つことによって、真皮層に微小な傷を与えて、修復再生する過程で細胞のコラーゲンやエラスチンが生成促進され、肌組織を改善していくことだから。

極論を言えば、打つ場所を憶えてさえいれば、その効果が表れるのは当然とも言える。

リスクを知らない鍼灸師が多すぎる?

当然ながら、鍼を打つリスクを知らずに独立する人も多い。ちなみに鍼灸学校では美容鍼のコースがないので、身体との結びつきなどは基本学んでいない。

昔は「面疔(めんちょう)を潰すと死ぬ。」という言葉があった。今ほど抗生物質が普及していない時代、顔に鍼を打つことの最大リスクは髄膜炎を引き起こす危険性だった。

体には、いくつか危険三角域と呼ばれる部位があり、顔面の危険三角域は、顔面の中央、眉間を頂点とし両口角を結ぶ辺を底辺とする二等辺三角形の内側のこと。

例えば、美容鍼を多く刺す、ほうれい線の奥には顔面静脈ある。この顔面静脈は頭蓋骨内の静脈洞と繋がっており、頭蓋骨の中、つまり脳に通じているとも言える。

そして、顔面静脈は他の静脈と違って逆流防止の弁を持たないため、血流が逆行しやすい特徴がある。この静脈に細菌が入り込むと、頭蓋骨内に細菌が侵入し髄膜炎を引き起こし、最悪、死に至る。

実際は、このような知識がなくても、滅菌された鍼を使って、きちんと消毒された手指で施術していれば、問題ない。しかし、根本的なことを知らない鍼灸師も多く、トラブルが起きているとのはなしもたまに聞く。

これらはより本質的な治療を目的にすればするほど必要な知識になる。

副作用を理解しているか?

どんな医療にも作用があれば副作用が必ずある。もし副作用がないのなら、その施術の効果は期待できなし、持続性はない。また、副作用を好転反応と言い換えて、お茶を濁している治療院も多くある。

ちなみに、好転反応とは治療の経過において生じる、身体の反応のことで、症状が改善していく過程でみられる副作用のこと。

そのような意味で、症状の改善作用が大きければ、それに応じて副反応も(症状の改善以外に見られる体の反応)も大きく出る可能性がある。

実際の治療においては、個人に合わせた刺激量を選択することで、治療効果と体に出る反応を調整するべきだが、そのことも分かっていない鍼灸師が美容鍼業界には多い。

現代の鍼治療は鍼の品質の向上と、衛生管理の徹底により、鍼折事故や前途した感染症を原因とする副作用はほとんど起きていない。

だから、主な副作用は鍼を刺入することにより起こる身体の反応がほとんど。この副作用は皮下出血(内出血)、筋肉痛・脱力感、自律神経への影響などの身体の反応。

初めて鍼治療を受けられる方は緊張している状態であるため、刺鍼の刺激による体の反応が起こりやすい傾向ある。だからこそ、治療時の体の反応を見つつ、控えめの刺激量になるように調整する。しかし、それができる鍼灸師が特に美容鍼業界には少ないのが気になる。

いずれにせよ、美容鍼業界がさらなる発展するためには、鍼灸師の技術の底上げが必要になることは言うまでもない。